銀座で働いていた時の思い出①

 コロナが蔓延する3月まで、僕は銀座のとある和菓子屋で働いていた(大福をお土産に持っていった方ならある程度店名の察しはつくかもしれない)。

 場所的には帝国ホテルや東京宝塚劇場の近く。和菓子屋ということもあってかつては多くの外国人観光客の方が足を運んでくださった。

 そこで働いていた時にあった体験談をいくつか紹介していこうと思う。

 

 「銀座」という街の名前を聞いて、大抵の人が想像するのは「時計台」だったり「三越」だったりするだろう。ニュースなどで話題になる「日本一地価が高い土地」もここにあるわけだが、その銀座は銀座の中でも別格である「銀座四丁目」である。「銀座」と一言で言っても一丁目から八丁目まであり、一丁目はもはや「京橋」と言った方が早いし、八丁目は「新橋」である。そんな中でも僕が勤めていたのは銀座六丁目、「GINZA SIX」という店舗がある街区である。

 

 少し前置きが長くなってしまった。体験談を話そう。

 ある月曜日の夜。この日は正社員の方が一人だけ、しかもお客様が誰も来ないこともあって暇を持て余していた。ショーケースを拭いていると、紫の和服をお召しになったお綺麗な女性がご入店された。

 「いらっしゃいませ」と言うと、何を言うでもなくこちらを見てニコリと微笑んだ。「艶美」とはこのような方の様を表現するために生まれた言葉なのだろう。

 ショーケースを一瞥した後、御姐様(本当にこの言い方が合うような方なのだ)はこちらを向いて、「御大福四つ、風呂敷に包んでくださる?」と仰った。風呂敷はその値段も高く、あまり利用される方はいらっしゃらない。

 ささっと包んで(茶道で包み方は習っているから割とすぐ覚えたものだ)お渡しすると、またニコリと微笑み「遅くまでお疲れ様、頑張ってね。」と仰られた。

 

 危うく恋に落ちかけた。