VTuberの問題を通して考える法律・条文

 先日来、とあるVTuber事務所のライバー同士が揉め、片方が引退する(以降残留側のライバーをA、引退側をBとする)というなかなかハードな問題が続いている。

 このことについてはどちらが良い・悪いとも言えないので、どちらかの肩を持つということはしないが、二人の行為や行動を法律という面を通して考えてみようと思う。

 

「匂わせ」行為と侮辱罪

 双方ともにTwitterあるいは動画を通して、「匂わせ」という行為を行なっている。

 この「匂わせ」という行為について分からない方に軽く説明すると、当該人物の名を伏せた上で自分がされたことなどを記し、他の行動で(今回であればTwitterのフォロー解除や相手の衣装に似たイラストを描くなど)それとなく仄めかすことを指す。

 このような場合、刑法231条に定めるところの「侮辱罪」が問題となってくる。

 侮辱罪の要件は、公然と他人を侮辱することであり、ここでいう公然とは「不特定または多数の者が認識し得る状態のことを指す。おそらく、Twitterでの投稿やYouTubeでの動画投稿はその状態に容易に成し得るものであり、この要件については満たしていることに異論はない。

 問題は、「匂わせ」という行為が「侮辱」にあたるかという点である。侮辱にあたる例としては「〇〇はバカで仕方がない」というようなものがある。だが、今回の「匂わせ」については前述のように、当該人物の名前を伏せた形で行われ、誰を示しているかはわかる人にはわかるというものである。そのため、この場合は侮辱には当てはまらない可能性がある。

 

「情報漏洩」と不法行為

 Bの引退の理由について、事務所側は、「Bが第三者との間で交渉経緯などを漏洩した」ことが一つの理由であるとしている。

 このような場合に問題となってくるのが民法709条の「不法行為」である。(一応機密漏洩罪という刑罰もあるのだが、一般人とは関係ないものなのでここでは無視する。)

不法行為の要件は主に四つ、①加害者の故意又は過失権利または法律上保護される利益の侵害損害の発生侵害行為と損害発生との因果関係である。

 まずは①について見ていこう。B側は第三者に対して故意に交渉についての情報などを渡したことは(現時点では)明らかであるため、この要件は満たしていると言える。

 次に②について見ていこう。Aとしてはこの漏洩行為により、「AとBとの個人的なやりとり」などが第三者に流れてしまったため、権利の一つとしてAのプライバシー権を侵害されたこととなる。そのため、要件を満たしている。

 そして③についてであるが、これについてはAのツイートへのリプライ欄を見ればわかる通り、それこそ侮辱罪が適用されるようなツイートが送付され、おそらくAは精神的苦痛を受けている。これについてはAの個人的な問題となるためなんとも言えないが、釈明の文面等を見る限りは通常の精神状態ではないと思われるため、要件を満たしていると言えるだろう。

 最後に⓸についてだが、これは明らかに因果関係があるため、要件を満たしている。

 以上より、不法行為は成立し得るため、仮に提訴された場合には、Bは漏洩の違法性がないことを証明しないといけない。

 

スクリーンショット」と私文書偽造

 様々なリプライ・コメント等を受けたAは、Bとのやりとりをスクリーンショットで後悔することとなったのだが、その画像の一枚目に「編集済」というものがあり、また、事務所側が示しているやりとりの内容と齟齬が生じている部分(やりとりの回数)があった。

 仮に、AがBとのやりとりについて意図的に削除や編集などで手を加えていた場合に問題となってくるのが、刑法159条に定めのある「私文書偽造等に関する罪」である。

 これは、条文内で言うところの「事実証明に関する文書」について行使の目的で偽造した場合に罪に問われるというものである。

 このスクリーンショットが「文書」と言えるかどうかは疑問ではあるものの、仮にこれが唯一のやりとり(書面ではなく)であったならば、そのやりとりについての事実を証明する文書と捉えられてもおかしくはないかもしれない。

 ただ、編集等についてはもしかしたら単なる誤字によるものかもしれないので、此れを以て「私文書偽造」であると決めつけることはできない。B側からのスクリーンショット等の提出を待つのみである。

 

 以上である。

 正直、このようなギスギスは見たくはなかったが、起きてしまったからには原因の究明と双方へのケア、そして適切な措置が必要であると考える。