『半沢直樹』という名のなろう系ドラマ

 突然だが、『半沢直樹』は好きだろうか。

 私は好きだ。何よりそのわかりやすいストーリーと堺雅人氏の演じる主人公半沢直樹の痛快な発言は●●ッとJAPANなんかよりもよっぽどスカッとする。

 

 ではなぜこんなに人気が出たのか。私はこのドラマで描かれるストーリーがいわゆる「なろう系小説」と類似しているからだと考える。

 そもそも「なろう系小説」とは何か。4Gamers.netというゲーム系のサイトにおけるインタビュー記事においては「『小説家になろう』というサイトではやっている、何の変哲もない主人公が異世界に行く/あるいはそこに転生することで、突如ヒーロー扱いされるといった類の物語の総称」であると紹介されている。最近のライトノベルはこのような形式の物語が定番となっており、そのような物語のヒーローに似た自己紹介をTwitterなどでする人物を「イキリトソードアートオンラインの主人公「キリト」と「イキる」を組み合わせた造語)」と呼ぶこともある。

 私は『半沢直樹』もその一種であると考える。主人公半沢直樹は「すごい人物」というイメージが先行しているが、実際は一介のサラリーマンに過ぎない。家に帰れば一児のパパである(尤も、花さんというチート級の美人を妻としているが)。しかし、一度「東京中央銀行」という「異世界」に出勤すれば 、他の銀行員が恐れ慄くような何個も上の上司(なろう系なら強敵)に対して大声で叫ぶし、「倍返し」という必殺技を使う。そして社内でヒーロー扱いされるのだ。

 こうした物語が流行るのは今に始まった事ではない。「暴れん坊将軍」や「水戸黄門」だって「下々の住む街」という異世界にその身分を隠して訪れ、悪事を暴く。元々我々はこういった物語が好きなのだ。

 

 ただ、この『半沢直樹』が流行ることによって危惧されるのが「半沢しぐさ」ともいうべき会社員の増加である。上司に反抗したり、「倍返し」を試みたりとする人、会社版イキリトである。

 半沢直樹はあくまで架空の人物である。正直あんなことをして許す中野渡頭取は「超」のつくお人好しではないだろうか。実際にあんなことをしでかしたら即日クビであろう。